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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)1212号 判決 1988年1月29日

主文

被告人を罰金一万円の処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、韓国人であるが、昭和六〇年二月一五日、東京都新宿区歌舞伎町一丁目四番一号所在の東京都新宿区役所において、居住地を所轄する同区区長に対し、外国人登録法一一条一項による登録事項の確認申請をするに際し、外国人登録原票、外国人登録証明書及び指紋原紙に指紋を押捺しなかったものである。

(証拠の標目)<省略>

(弁護人の主張に対する判断)

一  憲法一三条違反の主張について

弁護人は、指紋は万人不同、終生不変の特性を有し、他に何らの資料を要せずに個人の識別を可能とする最も価値の高い個人情報であり、現代の情報化された社会においては、これにより個々に蓄積された個人情報を引き出すことが可能であるから、憲法一三条の保障するプライバシイの権利の一内容をなすと解すべきであり、また、わが国においては、指紋を採取されるのは犯罪者であるとの一般的理解が浸透しており、人が指紋押捺を強制されたときは犯罪者扱いをされたと感じて大きな屈辱感と嫌悪感を覚えるものであるから、指紋押捺を強制されない権利は個人の尊重を規定する憲法一三条によって保障されると解すべきであるのに、外国人登録法(昭和五七年法律第七五号による改正後のもの。以下外登法という。)一四条一項は何の合理性、必要性もないのに在留外国人に対し指紋押捺義務を課し、一八条一項八号はその不履行に対し刑罰を科することとしているのであるから、これらの規定は憲法一三条に違反し、少くとも被告人に対し適用する関係では憲法一三条に違反すると主張する。

(一)  そこで検討するのに、外国人登録の制度は、昭和二二年に制定された外国人登録令(勅令第二〇七号)に始まるが、当時は登録に際しての人物の特定や登録証明書切替等に際しての同一性確認の手段を写真等にのみ求めていた結果、二重登録、虚無人登録等の不正登録が続出して多数の不正登録証明書が流通し、写真の貼替えによる登録証明書の不正使用が広く行われることとなったため、昭和二七年の外国人登録法(法律第一二五号)の制定にあたり、指紋押捺制度を導入し、写真等のほかに指紋を併用して同一性の識別に万全を期することとしたものである。このように、外登法の指紋押捺制度は、外国人を正確に特定して登録し、その外国人と現に在留する外国人との異同を誤りなく識別する同一性確認の手段として採られているものであり、そのことを通して間接的に不正登録及び他人の登録証明書の不正使用を防止することを期しているものであるから、その合憲性を判断するにあたっては、まず、わが国が外国人に対し同一性を確認する権限を有しているか否か、及びこれに対応して外国人が同一性の確認を受忍する義務を負うているか否かを明らかにする必要がある。

およそ国は、国際慣習上外国人を受け入れる義務を負うているものではなく、特別の条約があるときを除き、これを受け入れるか否か、また、受け入れた場合にいかなる条件を課するかについて自由に決定する権限を有しており、これに対応して、外国人には、他国に入国又は在留する権利は保障されていない。わが国の憲法も、このことを当然の前提としていると解される(最高裁昭和三二年六月一九日大法廷判決・刑集一一巻六号一六六三頁、同昭和五三年一〇月四日大法廷判決・民集三二巻七号一二二三頁参照)。してみると、わが国は、憲法上、外国人の入国及び在留に関して管理を行う広範な権限を有することになるが、この管理を適正に行うには、入国及び在留の対象者である外国人の同一性を確認しておくことが条理上不可欠であるから、わが国は、右の管理権限の一内容として、外国人の同一性を確認する権限をも当然に有していることになる。その結果、外国人は、右の管理に必要な限度において、自らの同一性の開示を受忍する義務を負い、わが国に対し同一性を秘匿する権利を主張することは許されないことになるのである。現在、わが国においては、出入国管理及び難民認定法が、外国人の出入国と在留とを直接的に管理し、また、外登法が、在留外国人の居住関係と身分関係とを明確にさせてその在留を直接的に管理するとともに、不法入国の防止に役立たせ、出入国を間接的に管理することとし、両者相まって外国人の公正な管理に万全を期しているのであるが、これらの立法措置は、上述の理由により、憲法上十分の根拠を有しているというべきである。

また、右の同一性確認の権限は、同一性確認という目的自体を達成する権限であるから、そのために必要で合理的な確認手段を採る裁量権を当然に内包していると解せられる。

(二)  もっとも、わが国が外国人の同一性を確認する権限とそのための手段を採る権限とを有しているからといって、採られた手段が憲法上すべて許容されるわけではなく、その手段が国のもつ裁量権を逸脱して憲法に違反するときは、もとよりこれを違憲としなければならない。この裁量権の逸脱は、大別して三つの場合に認められるので、以下、現在の指紋押捺制度に即して順次検討する。

(1) 第一に、同一性確認のために採られた手段が、国の確認の権限に優越する個人の憲法上の権利を制約し、これを侵害したと認められるときは、それだけでこれを違憲としなければならない。

この観点から指紋押捺制度を考えると、確かに、指紋は、万人不同、終生不変の身体的特徴であり、個人を識別する最も確実な手段であるから、その管理は、本来個人の意思に委ねられるべきものである。しかし、既に述べたとおり、外国人は、自らの同一性を確認されて初めてわが国への入国及び在留を許される立場にあるのであるから、わが国が外国人の入国及び在留を公正に処理するため指紋押捺により同一性の確認を行う場合には、これに優越する同一性秘匿の権利を有するということはなく、したがって、指紋が同一性確認のための決定的手段であることを理由として指紋押捺制度を違憲とすることはできない。

また、右のような指紋の特性から、指紋によって他の多くの個人的情報が取得される可能性があることも否定し難いが、それは同一性を確認されることの派生的影響であるにとどまるばかりか、単にその可能性があるということから、外国人の側に同一性確認の権限に優越する権利があるということはできず、したがってその侵害があるということもできない。

さらに、指紋それ自体は、体の外表の紋様に過ぎず、個人が私生活の一部として秘匿したい個人の身体的精神的特徴、思想内容等の情報を表象しているものではない。

ただ、指紋は、前記の特性のゆえに、犯罪捜査の手段として重要な役割を果しており、現行法上も身柄を拘束された被疑者からは強制的に指紋が採取されることとされているので(刑事訴訟法二一八条)、指紋の押捺を強制されると、たとえ犯罪捜査とかかわりなしにそうされた場合でも、犯罪者扱いをされたような屈辱感、嫌悪感又は差別感を覚えることがある。しかし、このような感情は、指紋を押捺する際の状況に応じて異なるものであり、例えば日常の文書作成の際には印鑑押捺又は署名に替えて何の抵抗感もなく指紋を押捺しているのであって、この事実は、指紋を押捺すること自体がそれだけで人格の尊厳を損うような性質のものでないことの証左ということができる。そうして、外登法により指紋の押捺を強制される際に外国人が覚える前記の感情は、そのことにより同一性確認の最も有力な手段が国により確保されるという事実、外国人のみが指紋を採取されるという事実、及び任意ではなく間接強制により指紋が採取されるという事実から生ずる面が多いと考えられる。してみると、そのような感情は、外国人であるという立場に従って課せられる義務に不可避的に伴うものであるから、やむを得ない制約としてその受忍を求めるほかはない。

結局、指紋押捺制度が国の確認の権限に優越する個人の憲法上の権利を侵害しているということはできない。

(2) 第二に、同一性確認のために採られた手段が同一性確認という目的との間に合理的関連性がないときにも、違憲の問題を生じる。

しかしながら、指紋のもつ前記の特性からみると、指紋押捺制度が同一性確認の手段として最も確実なものであることは明らかであるから、目的との間に十分の合理的関連性があるというほかはない。したがって、この観点から指紋押捺制度を違憲と解する余地はない。

(3) 第三に、同一性確認のために採られた手段により国にもたらされる利益が僅かであるのに対し、その手段により失われる個人の利益又は権利が大きく、利益考量上明らかに不合理な手段が採られたと認められるときにも、国の裁量権の逸脱があったとして違憲の問題を生じる。

この観点から指紋押捺制度を検討すると、在留外国人の管理を行うには、既に述べたとおり、在留する資格のあるすべての外国人について登録をし、登録証明書を交付するとともに、在留する資格のない者が資格のある者として登録されたり、登録証明書を不正に入手したりすることのないようにする必要がある。他方、今日不法に入国又は残留する外国人は年間数千人に達しており、これらの者の中には他人になりすまして登録をしたり、他人の登録証明書を入手しようとする者がある。また、いったん在留許可を受けた外国人の中にも、強制退去事由の発生、破産の宣告、犯罪への関与などのため、自分の同一性を隠し、他人になりすますことに利益を感ずる者がある。そこで、外国人登録の制度を適正に運用するためには、同一性確認のための確実な手段を採り、同一性に疑問が生じた場合の極め手とするとともに、同一性を偽る企てを未然に防止する必要が生じる。指紋押捺制度は、まさにこのような目的のため採られた措置であり、特別の事情のない限り、十分の合理性を有している。

そこで、右の特別の事情があるか否かの検討に進むと、所論は、この制度の導入により不正登録が減少したとする法務省の説明は根拠に欠けており、それ以前に既に一斉切替制度の開始、米穀通帳との照合、居住地変更登録制度の採用等により不正登録者はほとんど淘汰されていたのであるから、指紋押捺制度を導入したことにより不正登録が減少した事実は認められず、むしろそうする必要性がなかったことが認められると主張する。なるほど、登録証明書の一斉切替制度等が導入された後、指紋押捺制度が導入されるまでの間に、登録人口が大幅に減少しており、かつ、これが不正登録の大量の減少に起因するものと推認されるが、一斉切替制度等の導入により不正登録者や登録証明書不正使用者が皆無となったわけではなく、現に指紋押捺制度が導入された後にも登録指紋の照合によって不正登録等が摘発された事例が報告されており、また、事柄の自然の成り行きとして指紋押捺制度が導入されることにより不正登録が摘発されることをおそれて導入前に不正登録を断念した者も多かったと推定される。そればかりか、指紋押捺制度は、もともと不正登録等により同一性を偽る余地をなくし、不正登録等をしようとする者にこれを断念させる抑止的効果をも重要な趣旨としているところ、不法入国者が指紋押捺制度の実施以前に登録証明書を不正に入手して同制度実施以後これを利用して発覚した事例は、昭和五五年から昭和五九年までの五年間だけで一二五件あったのに対し、同制度実施以後指紋押捺が必要な登録証明書を不正に入手して利用した事例は、まったく摘発されていない。この事実は、この制度がいかに他人の登録証明書の不正使用の防止に有効であったかを物語るものである。

所論はまた、同一性の確認には写真を用いることで十分であり、指紋を併せて用いる必要に乏しいと主張するが、容貌は年齢や髪型等によって変りうるし、他人の空似もあるから、顔写真のみでは同一性の確認に極め手を欠く場合があり、ビニールコーティング等による偽造、変造の防止策も未だ完全とはいえない。そうすると、写真による同一性確認の手段があるからといって、指紋をその極め手として用いることの価値はいささかも損われるものではない。

所論はさらに、わが国民の居住関係と身分関係を明確にすることを目的とした住民基本台帳法及び戸籍法が指紋押捺制度を採らないでも公正に運用されていることを考えると、在留外国人の居住関係と身分関係を明確にすることを目的とした外登法についても指紋押捺制度に頼らないで公正に運用することは可能といい得るので、その制度を維持する利益は小さいと主張する。しかしながら、わが国民の場合には、日本国民であることが明らかである限り、わが国に入国し在留する当然の権利を有するのであって、入国及び在留の観点からは、それ以上にその同一性を確認する必要がないのに対し、外国人の場合には、外国人であることが明らかであるだけでは足りず、入国又は在留する資格を有する者であることを具体的に特定しなければならない。したがって、わが国民と外国人とを同じレベルで比較するのは失当である。そればかりか、外国人の場合には、氏名、生年月日その他の身分事項等がわが国にとって明確でないことが多く、また、一般的にみる限り、その在留期間が短く、係累が少ないなどわが国への密着度は浅いので、その同一性の確認には困難が伴う。また、かりに外国人に関しても指紋押捺制度を設けない場合において、わが国に在留する資格のない不法入国者等の外国人が資格のある外国人になりすますことは、日本国民になりすますことに比べれば格段に容易であり、その可能性も高いと思われる。そうすると、在留外国人に対してのみ指紋押捺制度を採ることには、合理性がある。

所論はなお、第一〇九回国会で成立した外登法の改正法において、従前一律に再度目の指紋押捺をも義務付けていたのを改め、指紋によらなければ同一性が確認できない場合など一定の場合において国側が命じたときにのみその義務を課することとした事実を援用しつつ、これをみると、本件で問題とされているような再度の指紋押捺は必ずしも必要ではなかったことになると主張する。しかしながら、右の改正法は、現行制度の下において指紋の押捺を不快とする外国人の心情を慮り、外国人登録の正確性を損わない限度内において指紋による同一性の確認制度をあえて緩和し、確認については、第一義的に、写真及び登録原票記載事項の照合と出頭した人物に対する質問その他市町村の長の調査権の積極的活用等の方法により行い、それでもなお指紋によらなければ同一性の確認ができない場合には、指紋の押捺を命じることにより、所期の目的を達成しようとしたものであり、基本的には指紋による同一性確認の方法に立脚しながらも、確認の程度を立法裁量上緩めたものだということができる。そうすると、右のような緩和が図られたことをもって、再度の指紋押捺が不必要であることの立証がなされたとみるのは相当でない。

以上のとおり、指紋押捺制度は、これを維持するに足りる十分の理由があるというほかない。加えて、指紋押捺の強制が有形力を用いた直接強制ではなく刑罰による間接強制にとどまることを考えると、外国人が指紋の押捺を強制されることにより受けるであろう屈辱感、嫌悪感及び差別感を十分に考慮しても、指紋押捺制度が明らかに利益考量を失した制度であるということはできない。

(4)  結局、指紋押捺制度は、手段の観点からみても、違憲ということはできない。

(三)  次に、弁護人は、わが国に長期間居住し、わが国を生活の場としているいわゆる定住外国人は、居住関係、身分関係ともに日本人と変わらずに明確であるから、指紋によらなくても同一性の確認は十分に可能である反面、指紋押捺の強制により受ける屈辱感、嫌悪感はより大きいので、少くとも定住外国人に対しても指紋押捺を強制する外登法の部分は違憲であり、あるいは、定住外国人に右の指紋押捺の規定を適用する限りにおいて違憲であり、殊に在日韓国朝鮮人は、第二次世界大戦終了前から強制連行によりわが国に居住するに至った者ないしはその二世、三世であり、日本国民と変わらない日常生活を営み、終生日本で生活することを予定している者であって、国籍と民族性を除いては完全に日本社会の構成員というべきであり、他面植民地時代から少数民族として数々の差別、弾圧を受けてきた歴史的事情から、指紋押捺を強制されることにより受ける屈辱感、嫌悪感は甚大であるから、指紋押捺を強制する規定は、在日韓国朝鮮人に対する部分において違憲であり、あるいは、在日韓国朝鮮人に適用する限りにおいて違憲であると主張する。

確かに、わが国に長期にわたり在留する者の中には、被告人のような在日韓国朝鮮人を含めて、わが国の社会との密着性が高い者がいるが、密着性の程度は万般の要因によって異なるため、いかなる者を定住外国人としてその余の外国人居住者と区別して取扱うかを一律に断ずることはできない。また、所論のような歴史的事情からみて、被告人のような立場にある在日韓国朝鮮人の中には指紋押捺を強制されることにより他の外国人に比し強く屈辱感、嫌悪感、差別感を受ける者がいることも理解できるが、それは外国人であるという法的立場に伴う受忍義務に由来するものであるから、他の外国人と在日韓国朝鮮人とを憲法上当然に区別して取扱うことはできない。

結局、いかなる者を定住外国人と定め、その同一性の確認にいかなる特別な手段を採るのが適切かについては、立法府の合理的裁量に委ねられているというべきであるから、所論は採用することができない。

(四)  以上の次第であって、弁護人の憲法一三条違反の主張は、排斥を免れない。

二  憲法一四条違反の主張について

弁護人は、日本国民については指紋押捺制度が採用されていないのに、外国人についてこれが採用されているのは、不当な差別であるから、外登法一四条一項、一八条一項八号は法の下の平等を定めた憲法一四条に違反しており、少くとも、定住外国人特に在日韓国朝鮮人に関する部分は違憲であるか、これらの者に適用する限りにおいて違憲であると主張する。

しかしながら、前述のとおり、外国人と日本人とは憲法上の立場に基本的な違いがあり、かつ、外国人に関して指紋押捺制度を採ることには十分の合理性があるから、所論は失当である。

三  憲法一九条違反の主張について

弁護人は、わが国は第二次世界大戦前の日韓併合以来、一貫して在日韓国朝鮮人に対し、その固有の民族的価値を否定し、日本化を強いる同化政策を推進してきたのであり、指紋押捺制度も、押捺させられる者に被差別者としての認識、卑屈感、劣等感を植え付けて戦前からわが国に根強く存在してきた朝鮮人差別を温存してきたのであって、被告人のような立場の在日韓国朝鮮人が朝鮮民族として生きようとする内的精神活動の自由を奪うものであるから、憲法一九条に違反すると主張する。

しかしながら、指紋押捺の義務は、国籍、定住の程度を問わず、わが国に一定期間以上在留する外国人一般に課せられているものであって、在日韓国朝鮮人に同化を強制する目的を有するものではないし、そのような作用を有するものでもないから、所論は理由がない。

四  憲法三一条違反の主張について

弁護人は、今日指紋によっては外国人の同一性の確認はまったくなされていないから、指紋押捺に関する外登法の処罰規定は処罰の必要性を欠いて憲法三一条に違反しており、また、日本国民については戸籍法や住民基本台帳法において、届出義務違反等について、行政罰である過料しか定められていないのに、同一目的を有する外登法においてのみ懲役、禁錮又は罰金あるいはその併科という重大な刑罰を課しているので、明らかに罪刑の均衡を欠いており、憲法三一条に違反すると主張する。

しかしながら、指紋押捺制度は、今日においても同一性の確認の極め手として利用されており、将来においても利用される可能性を有しているばかりか、それが存在していることにより不正登録や他人の登録証明書の不正利用を予防する機能を果しているのであるから、弁護人のこの点の主張は前提を欠いている。

また、わが国民の居住関係、身分関係を明確にするための戸籍法、住民基本台帳法と、外国人の居住関係、身分関係を明確にするための外登法とでは、その立法目的を異にしているから、その目的が同じであることを前提とする弁護人の主張は排斥を免れない。

五  市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五四年条約七号)違反の主張について

弁護人は、指紋押捺を強制し、違反に対して罰則を設けた外登法の規定は、指紋押捺を求められる外国人を犯罪者のような取扱い、その者に強い屈辱感や嫌悪感を与えるものであるから、右規約七条の「品位を傷つける取扱い」に該当すると主張する。

しかしながら、指紋押捺制度の根拠、押捺の方法、強制の方法等を考えれば、外国人に指紋押捺を強制することが、被押捺者の人間としての尊厳を著しく損ない、品位を毀損し、あるいは屈辱的な取扱いをするものといえないことは明らかであるから、右の主張は理由がない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は包括して外国人登録法一八条一項八号、一四条一項(一一条一項)に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、第一〇九回国会において成立した外国人登録法改正法では、本件被告人のような再度の指紋押捺の場合、前記のとおり一定の例外を除いては押捺を要しないとされたことなどの情状を考慮して、右所定金額の範囲内で被告人を罰金一万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官香城敏麿 裁判官出田孝一 裁判官大野勝則)

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